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2007年11月04日

鬼平・剣客・梅安のなかの蕎麦屋(その3)

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池波正太郎の人気3部作のうち、鬼平、剣客商売はどちらも勧善懲悪で正義のヒーローが主人公である。しかし仕掛人・藤枝梅安は勧善懲悪といえなくもないが、金で殺しを請け負うダーティヒーローの物語である。品川台町(現在の五反田駅近く)に住み優れた針医者で近隣の住人からも慕われている藤枝梅安と、浅草寺参堂の店で売られている“ふさ楊子”(江戸時代の歯ブラシ)職人の彦次郎が物語の主人公であるが、二人とも人を殺めた過去を持ち、いつしか金で殺人を請け負う「仕掛人」の道に入ってしまう。しかし池波正太郎にかかると、殺し屋といえども『人間は、よいことをしながら悪いことをし、悪いことをしながらよいことをしている』というコンセプトが貫かれていて読者に嫌な気にさせるどころか、人を仕掛けで殺す(悪人を殺す)シーンは爽快感すら味あわせてくれる。
このシリーズは作者が亡くなり7巻で絶筆となっていて大変残念である。したがって登場する蕎麦屋の件数は鬼平・剣客に比べて少ないが、食事処や食事のシーンは多く描かれていて、特に一人暮らしの梅安が食事するシーンが印象的である。中でも『小鍋立(こなべだて)』は、小さな鉄鍋に薄口の出汁をはり、大根や油揚げ、時には浅蜊などをシンプルに煮立てて酒を飲みながら食べるシーンはまさに男の料理という感じで自分でも試したくなる。

仕掛人・藤枝梅安

店名 住所(明記されていないものは推定、現住所は古地図から推定した) 作品名

1.『福山』 芝・赤羽橋(港区芝3丁目) 梅安晦日蕎麦(1巻)
  ………藤枝梅安がここ3年年越し蕎麦を食べている蕎麦屋。

2.『信濃屋』本所・徳右衛門町二丁目(墨田区立川3丁目) 梅安蟻地獄(2巻)
  ………黒い太打ちの蕎麦を、大根おろしの薬味だけで食べさせる「寝ざめ蕎麦」が名物。梅安と彦次郎が2階の座敷から見張りをする。

3.『笹岡』麻布市兵衛町(港区六本木1丁目) 梅安蟻地獄(2巻)
  ………上品な蕎麦屋。梅安が足軽・小頭を連れ込んで情報収集に使う。

4.『三州屋』東海道・藤枝宿(静岡県藤枝市) 梅安初時雨(2巻)
  ………梅安が生まれ故郷の藤枝宿に立ち寄ったときに、自分の幼い時と重ねて炭屋の小僧を見つめる小さな蕎麦屋。

5.『蕎麦屋 武蔵野屋与兵衛』札の辻・芝田町四丁目(港区三田3丁目) 梅安流れ星(3巻)
  ………「武蔵野蕎麦」と名づけた太目の黒い蕎麦を出す。酒も冷酒一杯と決まっている。一年中戸障子を開け放し、土間の真中に大火鉢を据えて炭火を山のように盛り上げている。体の大きな60がらみの親爺が蕎麦を打つ。彦次郎が気に入り梅安の家の往復に立ち寄る。

6.『亀玉庵』浅草・奥山(台東区浅草2丁目) 梅安最合傘(3巻)
  ………彦次郎が浅草寺参堂の「卯の木屋」にふさ楊子を納めた帰りになじみの料亭・井筒の亭主と出会い立ち寄る。池波作品お馴染みの蕎麦屋。

7.『駒笹』日本橋・富沢町(中央区日本橋富沢町) さみだれ梅安(3巻)、梅安針供養(4巻)
  ………堺町の芝居町の近くだけに店の構えも洒落ており、気のきいた軽い料理も出す蕎麦屋。藤枝梅安や小杉十五郎が使う。

8.『福本』蔵前・元旅籠町二丁目(台東区蔵前3丁目) 梅安影法師(6巻)
  ………小ぎれいな店で、気の利いた酒の肴もあり2階には小座敷が2つありゆったりとくつろげる。酒も蕎麦も美味い。梅安を狙う仕掛人・鵜の森の伊三蔵が好む店。

9.『橋本』上野山下(台東区上野6丁目) 梅安冬時雨(7巻)
  ………刺客が立ち寄る蕎麦屋。辻斬りの前にゆっくり酒を飲んで気持ちを切り替えて『殺意』を充満させる。


《追記》鬼平・剣客・梅安 蕎麦関連登場場面

1.差し入れの蕎麦 本所・桜屋敷(鬼平犯科帳1巻)
  ………若い頃長谷川平蔵が通っていた道場にそば切りと冷酒が差し入れられるシーンが登場。

2.お静の手打ち蕎麦   あきらめきれずに(鬼平犯科帳8巻)
  ………長谷川平蔵の親友・岸井左馬之助の妻になるお静が平蔵達に酒の仕上げに手打ち蕎麦を出す。

3.お熊ばあさんが作る蕎麦掻き 鬼火(剣客商売17巻)
  ………長谷川平蔵の応援団ともいえる本所・弥勒寺門前の茶店・笹やのお熊ばあさんが、探索中の同心達に手際よく蕎麦掻きを作り食べさせる。

4.手土産の蕎麦を食べる 乳房(鬼平犯科帳・番外編)
  ………長谷川平蔵が役宅で駒形の御用聞き・三次郎の手土産にもらった蕎麦を酒を振りかけて食べる。

5.おはるの手打ち蕎麦  天魔(剣客商売4巻)、鷲鼻の武士(剣客商売6巻)、秘密(剣客商売9巻)
  ………秋山小兵衛の40歳も年下の後妻おはるが打つ蕎麦。おはるの実家は関谷村の農家。蕎麦打ちが得意。秋には新蕎麦を打つシーンも描かれている。また蕎麦だけでなく、饂飩を打つ場面も時々登場する。

6.蕎麦粉を使った菓子 雷神(剣客商売4巻)
  ………四谷塩町一丁目(新宿区本塩町)の菓子舗・富士屋又兵衛で売られる干菓子『南京落雁』は、 蕎麦粉と麦の炒り粉の中へ、胡桃の実を混ぜ合せ水飴で練り上げ型にはめて乾かして作られる。小兵衛の好物。

7.僧が打つ蕎麦 梅安晦日蕎麦(仕掛人・藤枝梅安1巻)
  ………寺の僧がお礼代わりに梅安の家に蕎麦粉や道具を持ち込み手際よく柚子を入れた年越し蕎麦を打つ。蕎麦を打つ僧はお国訛りから信州の出身らしい。


~鬼平・剣客・梅安のなかの蕎麦屋おわり~

投稿者 ishigaki : 2007年11月04日 08:29

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